夏に旬を迎える日本海側の岩牡蠣。
前回の記事で、私が自信を持っておすすめすると書いたのが、秋田県南部の象潟(きさかた)エリアで水揚げされる岩牡蠣です。
この象潟の岩牡蠣が美味しくなる理由は、実は秋田の海ではなく、山にあります。
美しい山の名は鳥海山(ちょうかいさん)。
山すそが広いために写真では稜線がなだらかに見えますが、標高は実に2000メートルを超えます。
秋田と山形の県境に位置するために古くから両県で親しまれ、秋田県では「秋田富士」、山形県では「出羽富士」とも呼ばれます。
象潟はこの鳥海山からほど近い場所にあり、登山道の入り口の1つに「象潟口」があります。
鳥海山が秋田の海に与えるのが、「水」の恵みです。
鳥海山には冬の間、日本海を吹き渡る冷たい季節風によって、大量の雪が降り積もります。
多いときで30メートルにも達する積雪は、春を迎えると雪解け水となり、山肌にしみ込みます。
地中にしみ込んだ水は、すぐには流れ出てきません。
鳥海山を覆うように繁るブナの森の根っこと豊かな土壌が、水を優しく蓄えます。
その期間、およそ数百年。
長い長い年月をかけて土の中を旅し、やがて地上に湧き出します。
伏流水です。
実は、象潟の場合、この伏流水が川を伝って海に流れ込むだけでなく、海の底からも直接湧き出ています。
これは比較的珍しいことで、山の水が直接、海に注いでいるのです。
ミネラルをたっぷり含んだ山の水は、海の生き物を育みます。
象潟の牡蠣の旨みは、こうして標高2000メートル超の山から海へ、数百年にわたる水の旅の恵みなのです。
次回は、象潟の海とともに生きる男たちをご紹介します!