みちなるみちのく

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東北で今一番おいしい!秋田・象潟の岩牡蠣③

前回・前々回の記事で、なぜ秋田の岩牡蠣が美味しいのか

なぜ象潟(きさかた)と呼ばれる場所は特別なのか、お伝えしてきました。

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megumin1120.hatenablog.com

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今回は、その象潟の海で生きる漁師さんをご紹介します。

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秋田県にかほ市にある小砂川漁港。夏の早朝、小さな船で岩牡蠣漁に向かう。

彼と最初に会ったのは冬のタラ漁の時期でしたが、そのときに「夏に来れば岩牡蠣をいくらでも食べさせてあげるから」と言われ、翌年の夏、彼が生まれ育った小砂川(こさがわ)の浜を訪れました。

 

秋田県に詳しくない人にとっては象潟(きさかた)だけでもすでに細かい地名だと思いますが、秋田県にかほ市の中に象潟町があり、その中に旧小砂川村があります。

 

隣の大砂川(おおさがわ)と比べ、浜の砂の粒子が小さいことからそう呼ばれるようになったとされ、小さな港には当時、彼を含め6人の漁師さんがいました(その後、若い人が弟子入りするなど人数は年ごとに多少増減しています)。

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なんて静かで、美しい海。

夏の日本海は本当に穏やかです。荒ぶる神のような冬の姿が、嘘のよう。

しかも、鳥海山の冷たい伏流水が海底から直接湧き出ているこの海では、水温が低くプランクトンが少ないので透明度が高く吸い込まれてしまいそうな美しさです。

 

ここでの夏の漁は、素潜りで行います。

といっても、海女さんのようないでたちではなく、見た目は完全にダイバー

早朝、明るくなるとともに小さな船で港から少しだけ沖に出て、場所を見定めると海に飛び込み、海底まで潜っていきます。

獲物をいくつか見つけると一旦上がってきて、海面に浮かべた浮き輪にひっかけた網に入れ、またすぐに潜ります。

昼ごろにかけて、ひたすらこの繰り返しです。

水深約5メートル、ときには8メートルという、体にきつい水圧のかかる環境で、時折速くなる潮の流れにも負けず潜り続けます

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(左)漁師さんはスイムスーツで潜ることに慣れているので、たまに素足で海に入ると、くすぐったくてたまらないらしい。(右)浮き輪の中の網にはあっという間に獲物が増えていく。

 

 

メインの獲物は岩牡蠣ですが、ほかにアワビサザエも穫ります。

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乱獲を防ぐために1日に獲っていい量が漁協で決められていて、特にアワビが厳しく、少数のアワビで売り上げを伸ばすためには、1つ1つ大きなアワビを見つけることが重要です。

漁師さんの頭の中には、どこにどのくらいの大きさのアワビが棲んでいるか、どこに岩牡蠣がたくさん集まっているか正確な地図描き込まれています。

 

照り付ける日差しをさえぎるもののない海原で、早朝から日中にかけてひたすら潜る、そんな体力勝負の作業をしながら、頭の中は常にフル回転

そして、体力と知力を兼ね備えていても、もし悪天候が続けば漁期の間に十分な水揚げは見込めない。

厳しい条件にも負けず潜り続けるのは、家族を守るため、そして、大好きなふるさとの姿を次の世代に残すため、と彼は言います。 

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小砂川の岩牡蠣漁は毎年6月頃から8月半ばまで。短い期間に年収の3分の1ほどを稼ぐこともある。

浜が漁船でにぎわい、人々が豊漁に沸く。山と海の恵みとともに生きるふるさとの姿を、自分たちの代で終わらせたくない

強い思いを胸に、海の男は今日も潜り続けます。