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台風10号が来る前に気象予報士が伝えたいこと① 川に見えない「川」も氾濫する

気付いたら、"今週のお題"が「もしもの備え」になっていました。

数日前に岩手の過去の台風被害についてお伝えしたばかりですが、せっかく世の中の防災に対する関心が高まっている機会なので、本業(?)に戻ってこの記事を書きます。

 

いずれの項目でも、東北での大雨被害を見てきた経験をもとに、今回の台風10号で何が起きる可能性が高いかを解説していきます。

 

■目次■

1.大雨のつくりかた…台風10号予想とともに

2.川に見えない「川」も氾濫する

3.土砂災害は「意外な」場所では起きない(明日の記事)

4.一番の備えは、「普通のこと」(明日の記事)

 

                                1.大雨のつくりかた…台風10号予想とともに

私が仙台で気象予報士・防災士として働いていた間、2015年には関東・東北豪雨があり、2016年には先日の記事に書いた岩手県の台風被害があり、そして2017年には秋田県で雄物川が2度にわたり氾濫しました。

 

いずれも大きな目で見れば持続的に流れ込んだ暖かく湿った空気山にぶつかって上昇し、雨雲が発達し続けたことが原因でした。

そしてこれは、日本のどこでも起こり得る現象です。

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湿った空気が山にぶつかると強制的に上昇させられ、雨雲が発達する。関東・東北豪雨のときの宮城県では湿った東風が奥羽山脈にぶつかり、岩手県に台風が上陸したときは湿った東風が北上山地にぶつかり、秋田県で雄物川が氾濫したときは湿った西風が奥羽山脈にぶつかった。

今回、台風10号が現在の予想進路に沿って進んだとすると、日本列島では九州から関東にかけて、非常に暖かく湿った空気南から、または南東側から吹き付けることになります。

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9月4日21時時点の気象庁台風予報を元に作成(必ず最新の情報を利用すること)。台風の周りの風は反時計回りなので、本州付近に南風が吹き込むことになる。

つまり、南風や南東風がぶつかるような山の配置になっている地域で、特に雨量が多くなりやすいということです。

 

国土地理院が提供する地形図にあてはめてみると、台風進路に近い西日本の中では特に、宮崎県高知県で雨量が多くなりやすいことがわかります。 

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台風周辺の湿った南風(赤い矢印)が山にぶつかると、雨雲が発達しやすい。

実際、宮崎県では9月4日夕方時点の予想で総雨量が1000ミリ近くになるおそれが出てきていて、場所によっては平年の年間降水量の1/3ほどが数日間で一気に降るかもしれないのです。

 

一方、台風から離れたところにも暖かく湿った空気は流れ込みます。

台風周辺の暖湿流はだいたい1000キロくらい離れたところまで影響を及ぼすことがあり、たとえば関東でも他人事ではありません

 

南からの暖湿流が関東山地にぶつかって上昇し、あちこちで局地的に雨が強まるおそれがあるだけでなく、大気の状態が不安定になって落雷竜巻につながるおそれがあります。

 

                                2.川に見えない「川」も氾濫する

2015年9月関東・東北豪雨では、宮城県や茨城県などで複数の川が氾濫しました。

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2015年9月の関東・東北豪雨で浸水した宮城県の様子。(写真:東北地方整備局HPより)

一面泥水で浸水した様子は上空のヘリコプターから捉えられ、テレビ中継などでも大きく映されました。

ところが、それほどまでに大規模な浸水を引き起こした川の1つは、地元の人が正確な名前すら知らないような、つまり普段は名前を呼ぶ機会すらないような、小さな小さな川だったのです。

 

しかも、先日の記事でお伝えしたように、小さな川ほど逃げる猶予を与えず突然氾濫する傾向があります。

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小さな川ほど急激に増水しやすい一方、大きな川は時間差で増水し、雨がやんだ翌日に氾濫することも。

皆さんの身の回りにも、ちょっとした用水路とか、水がちょろちょろとしか流れないような小川があると思います。

そんな小さな川でも、雨の降り方によっては脅威になるということです。

 

川の洪水リスクを事前に知るためにはハザードマップ(各自治体のマップはこちらから)が有効ですが、小さな川については自治体でのハザードマップの作成作業が追い付かずに存在しないことがよくあります。

そのため、小さな川については「実況」、つまりその時々の最新の情報を確認するしかありません。

 

気象庁HPには2017年から、全国の2万を超える川について、洪水の危険度がわかる最新データが公開されています。

www.jma.go.jp

たとえば、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)のときに西日本エリアに実際に発表されていた危険度分布を見ると、すぐにでも安全確保が必要な紫色の表示があちこちに見られます(詳しい凡例は上記HPを参照)。

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2018年7月6日21時時点の洪水危険度分布。左が西日本の広い範囲、右は広島県の一部を拡大したもの。このくらい詳しい情報がいつでも無料で手に入る時代になった。

 今回の台風10号に関しては、すでに国土交通省が、「雨量が川の能力(川が海へ雨水を流す能力)を超えるおそれがある」として、宮崎県の大淀川など複数の川の名前を実際に挙げて、氾濫への警戒を呼び掛けています。

国土交通省が管理する川は大きな川(一級河川)だけなので、小さな川はニュースで事前に報道されることはありませんが、氾濫のおそれがあること、そして、ひとたび氾濫すれば被害が大きくなることに変わりはありません

 

大きな川についてはハザードマップ事前に確認して、そして、ハザードマップが見つからない小さな川については気象庁の危険度分布を活用して、身を守るための武器にしてください。

 

明日の記事では、土砂災害について、そして、実際の備えについてさらに詳しくお伝えします。