「せり、なずな…」で知られる春の七草と比べて、秋の七草は知名度が低いかもしれません。
秋の七草は、諸説ありますが、一般的にはオミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギだとされています。
奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)が歌に詠んだ植物が由来で、お粥に入れて食べるのが定着している春の七草とは違い、基本的には食用ではありません。
ただ、クズの根は葛根湯(かっこんとう)、キキョウの根は桔梗湯(ききょうとう)として漢方に用いられ、それぞれ風邪の初期症状や喉の痛みに効くとして、古くから知られています。
秋の七草に含まれる草花は、かつてはどこにでもある身近な植物でした。
しかし今では、キキョウやナデシコなら花屋さんや街中の花壇で見ることがあっても、オミナエシやフジバカマ、クズなどはもはや「珍しい」植物になりつつあるかもしれません。
こういった植物は、里山の生態系の中に多く見られます。
人が田畑を耕し、その田畑に人が植えた作物と自然の動植物が同居して、田畑とその周辺の大地に独特の生態系が形成される、里山。
そこには今も、秋の七草が当たり前のように生きています。
フジバカマだけでなく、田んぼのあぜ道や農道脇には、オミナエシやクズが生えていることも。
さらに、ミヤギノハギを県花とする宮城県内では、公共施設や一般家庭の庭にもハギの花をよく見かけます。
人が耕す田畑が里山の生態系を豊かにするとともに、里山の生態系に生きる動植物は、田畑の作物が美味しくなるのを助けてくれます。
豊かな土地の象徴でもある秋の七草が景色を彩る東北では、山に雪が降るまであともう1か月もありません。
季節は着実に、前へと進んでいます。