みちなるみちのく

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岩手の語源は「岩」についた鬼の「手」形!?三つの石に込められた願い

今週のお題が「鬼」ですが、岩手県、特に盛岡周辺に住む人が「鬼」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、今回お話しする「三ツ石伝説」かもしれません。

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盛岡市内にある三ツ石神社。ここに、伝説に残る「鬼の手形」がある。

昔、この地域に羅刹(らせつ)というがいて乱暴狼藉をはたらいたため、困った住民たちは、三ツ石様(みついしさま)という信仰の対象となっていた石(名前の通り三つの石)にお祈りをして助けを求めました。

すると、鬼はたちまちその石に縛り付けられてしまい、恐れをなした鬼は「この地に二度と来ない」と誓って去って行った――。

そんな伝説が、盛岡にはあります。

このとき鬼がその石に自分の手形を残していったことから、「岩」の「手」形ということで「岩手」の地名につながったとされています。

石のあった場所には現在、三ツ石神社(みついしじんじゃ)があり、鬼が手形を残したと伝わる三つの巨石もあります。

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(左)三ツ石神社の境内に残る三つの巨石。(右)鬼の手形が残っていると説明されているのはこのあたり。手形自体は風化により写真では判別できないほど見えにくくなっている。

なお、鬼が「来ない」=「不来(こず)」ということから盛岡周辺はかつて「不来方(こずかた)」とも呼ばれていました。

地名としての「不来方」が500~600年ほど前から存在していたとされることから、この伝説も少なくともその頃までにはあった、と考えられます。

ちなみにこの伝説には続きがあって、鬼がいなくなったことを喜んで人々が石の周りで「さんさ、さんさ」と言いながら踊ったとされていて、この踊りが現在の盛岡の夏の一大イベントである「さんさ踊り」の由来だと言われています。

また、さんさ踊りの際に太鼓を打ち鳴らすのも、当時の人々が鬼が二度と来ないよう太鼓の音を響かせたのが始まりとされています。

(ほかにも、坂上田村麻呂の伝説など複数の説が伝えられています。)

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あでやかな舞が夜空に映える「さんさ踊り」。例年3万人に以上や踊りや太鼓のパレードに参加し、4日間で約150万人の観客が集まる盛大な夏祭り(いずれも2016年に撮影)。

毎年祭りの前には、先ほどの三つの巨石の近くで、神事とさんさ踊りの演舞が捧げられます。

2020年と2021年の夏は、さんさ踊り自体は中止となったものの、この神事と奉納演舞だけは行われました。

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さんさ踊りの掛け声の一つである「サッコラーチョイワヤッセー」「サッコラ」は、幸(さち)

幸せを呼ぶという意味の掛け声で、さんさ踊りは、平穏安泰悪鬼退散の願いが込められた踊りでもあるのです。

現代にも、かつて石に縛りつけられた鬼とは姿形が違うけれども、たくさんの……恐れるべき様々な”悪いもの”が存在します。

三ツ石伝説を受け継いできた盛岡の人々は、鬼を退散させた”印”である三つの石に願いを込めて、悪いものを去らせ、幸せを呼び込めるようにという、強い思いも同時に受け継いでいるのかもしれません。