週末は再校ゲラ(原稿を提出したあと2回目に出るゲラ)の修正に手いっぱいでブログが書けず…。朱入れで真っ赤に染まったゲラを滑り込みセーフで出版社に戻したところですが、今日は、週末書きたくても書けなかった、みちのくの“奇祭”をお届けします!
毎年2月4日、秋田県にかほ市では、漁師たちが重さ約10キロもあるタラを担いで行列し、神社に奉納するという、300年以上も続く祭りが行われます。
単に「魚を神社に持って行く」ことの何が”奇祭”なのか、見たことがないと不思議に思われるかもしれません。
でも、想像してみてください。
重さは10キロ前後、大きいものは14キロくらいで、長さ1メートルほどもあるタラです。
それが50匹くらい並びます。
圧倒される光景ですが、これを棒にくくりつけて、太鼓や笛の山車を先頭に、港から神社まで約2キロ歩きます。
秋田の2月4日ですから、大雪や吹雪になることが多いです。
それなのにひたすら、巨大なタラを担いで2キロ歩いて奉納する、これを300年以上やっているのです。
さながら、ちょっとした“異世界”の情景です。
この伝統が続く金浦(このうら)漁港は、秋田県の中でも山形県に近い南部に位置し、夏は岩ガキ、冬はタラが名産の小さな港です。
冬の日本海で獲れるタラは寒鱈(かんだら)とも呼ばれ、とろけるような身と濃厚な白子がおいしいだけでなく、頭から尻尾まで捨てるところがないといわれるほど重宝され、東北日本海側では冬の味覚の代表格です。
一年の海上安全と豊漁を願って金浦山神社(このうらやまじんじゃ)にタラが奉納されるこの掛魚(かけよ)まつりは、地元の漁師や住民など例年100人が集まり、約50匹のタラが奉納されます。
行列が神社に到着すると、伝統の「金浦神楽(きんぽうかぐら)」の演奏と神事がおこなれます。
江戸時代から続く金浦神楽を受け継ぎ演奏するのは、地元の子どもたち。
体の小さい子たちも大人顔負けの力強さで太鼓を響かせ、笛の音とともに真冬の冷たい空へとこだましていきます。
奉納が終わると、お待ちかねの鱈汁(たらじる)の販売が始まります!
寒鱈汁(かんだらじる)とも呼ばれ、たっぷりの鱈や根菜類、ネギ、こんにゃくなどが入った具沢山の汁物は、寒い季節のご馳走。
郷土料理なので秋田や山形では家庭で食べている人も多いですし、飲食店でも出していますが、私はこの掛魚まつりに参加したとき寒鱈汁初体験だったので、吹雪の中、半信半疑で長蛇の列に並んで購入しました。
これが…
ほんっっとうに美味しいのです。
タラのアラから取ったお出汁だけでも絶品なのに、そこにフワフワのタラの身とホロホロになるまで煮込まれた根菜類、おまけにタラの白子まで入っています。
なんて贅沢…、全身が満たされる幸せなご馳走です。
ちなみに、これで1杯500円。
東京では白子だけで超えてしまいそうだ…。
そのほか会場の勢至公園(春には桜がきれいな公園です)には、秋田牛の串物やハムカツ(給食で出る地域があります)など、年によって多少内容が違いますが、ご当地の名物がずらりと並んでにぎわいます。
ひとしきり食べておなかを満たしたあとは、タラの抽選会。
タラの抽選ってどういうこと!?と思われそうですが、さきほど奉納したタラのうち、協賛企業が奉納したものは、おさがりとして抽選会で当たった人にプレゼントされます。(漁師さんが奉納した分は、そのまま神社に納められます。)
抽選券は鱈汁の購入チケットと一体になっているので、つまり私も抽選に参加できたわけですが、残念ながら当たりませんでした。
もちろん、もし当たったら10キロのタラを持って鉄道で半日かけて仙台に帰るのは不可能なので、どうしたらよいかわかりませんが…。
なお、今年2021年は例年のような行列などは中止となり、神事だけが行われました。
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私が掛魚まつりを見に行った2018年、吹雪の中、祭りの冒頭で漁協の方が、「今年の祭りは天候に恵まれまして…」と挨拶を始めたのが印象的でした。
いやいや「天候に恵まれ」って、めっちゃ吹雪いてるよ!と思って聞いていると、「天候に恵まれまして、自分たちで釣ったタラを奉納できることになりました。」と。
どうも、荒天が続くと海がしけて漁に出られない(しかも冬の日本海は荒天が多い)ので、年に一度の大切な祭りの日に、ほかの漁港から買ったタラを奉納しなければならなくなる、ということらしいのです。
つまり、当日の天気が吹雪で奉納が大変だとか、そんなことよりも、前日までの天気が安定していて自分たちの手で獲ったタラを奉納できることの方が、はるかに重要なのです。
そのくらい、漁師さんたちはこの祭りを大切にしている。
そう実感して、胸がじんとしました。
今年はいつもとは違う雰囲気で行われた掛魚まつりですが、私も遠く東京から、金浦の皆さんの安全と豊漁を願い続けます。