みちなるみちのく

東北180市町村を回った筆者が、あなたの知らない東北(みちのく)をご紹介します。

台風10号より9号の方が強風を引き起こした理由 —— 本当は怖い温帯低気圧の話

オリンピックの締めくくりとともに日本列島を直撃している台風たちですが、特に関東に住んでいる人にとっては、昨日8月8日に経験した風よりも今日9日に吹いている風の方が圧倒的に強いことに驚いているかもしれません。

関東のすぐ近くを通った台風10号よりも、離れた日本海を通った台風9号の方がなぜ強風を引き起こしたのか。

その答えの本質は、台風9号が「温帯低気圧になることができたから」

今日は、今週のお題「自由研究」にも役立ちそうな、"本当に怖い温帯低気圧の話"です。 

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台風10号(右側、関東付近)と台風9号(左側、九州付近)が同居する雲画像。雲頂高度(雲のてっぺんの高さ)が高いほど暖色系の色になるように着色されている。(気象庁HPより、2021年8月8日12時時点)

台風10号は8月8日朝、関東の千葉県にかなり近い海上を通過していきました。

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2021年8月8日午前6時の天気図(気象HPを元に作成)

このとき気象庁のアメダスで観測された風は、風速5m/s以上を表す青い矢印は関東や東海に集中的に分布し、10m/s以上を表す黄色やオレンジの矢印は台風中心がもっとも近づいた伊豆諸島や千葉県の一部でしか表示されていません。

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2021年8月8日午前6時の風の様子(気象HPを元に作成)

一方、8日夜に九州に上陸して、9日朝に温帯低気圧化した後、9日の日中かけて日本海を進んだ台風9号

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2021年8月9日正午の天気図(気象HPを元に作成)

そのとき観測された風がこちら。

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2021年8月9日正午の風の様子(気象HPを元に作成)

10号との差は一目瞭然です。

9号では、かなり広い範囲に風速5m/s以上の青い矢印や10m/s以上の黄色い矢印が分布し、15m/s以上のオレンジ色の矢印も数が多いです。

しかも、オレンジ色の矢印やさらに上のレベルの赤い矢印は、低気圧(台風9号から変わった温帯低気圧)の中心からかなり離れたところにも表示されているのがわかります。

 

ちなみに、なぜ10号が先に来て9号が後に来るのか不思議に思う人もいるかもしれませんが、台風の番号は発生順でつけるために、発生した後に日本列島に近づくまで時間がかかっていると、9号のように10号に先を越されることが多々あります

 

本題に戻ります。

なぜ台風のまま接近した10号の強風は限定的で、9号の強風は広範囲にわたったのか

それは冒頭で少し触れたように、台風9号が「温帯低気圧になることができたから」

どうして温帯低気圧になると強風の範囲が広がるのかは、台風と温帯低気圧の仕組みの違いを知ることで理解できます。

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台風と温帯低気圧の構造イメージ

台風は、熱帯の暖かくて湿った空気の塊です。

誤解を恐れずごく簡単なイメージで説明すると、中心にエネルギーの核のようなものがあって、中心に近いほど風が強く、(一部の例外を除いて)中心から離れるほど風速が落ちます

一方で、温帯低気圧は、暖かい空気だけでなく冷たい空気も伴っています。

北半球では基本的に北に行くほど冷たい空気、南に行くほど暖かい空気がありますが、温帯低気圧はその南北の空気をかき混ぜて温度差のある空気が混ざり合うときに開放されるエネルギーを利用しています。

南北の空気をかき混ぜるということは、中心付近だけでなく、その場全体を支配するということです。

かき混ぜる範囲は1000キロほどに達することもあります。

つまり、そのくらい広い範囲で温帯低気圧の強風の受けることになるのです。

これが、"温帯低気圧の本当の怖さ"です。

 

ここで一つ疑問なのは、温帯低気圧なんて普段から何度も日本付近を通過しているのに、今回ほどの強風を毎回経験しないのはなぜか、ということです。

それは、今回の温帯低気圧が非常に発達したため。

温帯低気圧は南北の温度差をエネルギー源にしているため、台風から変わった温帯低気圧のように熱帯由来の非常に暖かい空気を持っていると、必然的に南北の温度差が大きくなります。

しかも今回は北からの冷たい空気も同時に南下していたため、南北の温度差が大きくなる条件がそろっていた、言い換えると発達する条件がそろっていたことになります。

 

ちなみに少し話はそれますが、温帯低気圧が非常に発達するケースは、春一番が吹くときにも当てはまります。

春一番の場合は、冬の終わりの冷たい空気と、春本番を目前にして南から入り始めた暖かい空気との温度差が大きくなるため、その間で温帯低気圧が非常に発達して広範囲で強風となります。

 

さて、ここまで読んできた人の中には、どうして台風10号が温帯低気圧にならずに9号だけ温帯低気圧になったのか、疑問に思う人もいるかもしれません。

専門的な話にはなりますが、それは台風9号の上空に、寒気を伴った気圧の谷が南下してきたためです。

(ここから先は少し複雑なので、難しいと思った方は一番最後の段落までジャンプしてください!)

台風10号が日本付近を通過したとき、偏西風は台風10号よりかなり北を吹いていました。

台風10号が西から東へと移動したので偏西風に流されていたと思った人もいたかもしれませんが、実はそうではなく、南側にあった高気圧の縁を回る時計回りの風に流されていただけです。

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2021年8月8日午前6時の天気図(気象HPを元に加筆)

一方で台風9号の場合は、すぐ近くを偏西風が流れていました。

偏西風から切り離された気圧の谷(上空の低気圧のようなもの、反時計回りの風が吹いている)に、台風9号は取り込まれるように進みました。

この気圧の谷が寒気を伴っていたため、台風9号がもともと持っていた暖かい空気と混ざり合って温帯低気圧になったというわけです。

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2021年8月8日正午の天気図(気象HPを元に加筆)

温帯低気圧となって第二の人生を歩み始めた元台風9号は、明日8月10日にかけて東北地方を通過する予想となっています。

もっとも多くの雨が予想されているのは北海道や東北・北陸ですが、風は引き続き全国的に吹き荒れそうです。

この風によって、関東では間接的に強烈な暑さも引き起きされる予想で(埼玉・群馬県内などで最高気温40度の予想)、熱中症にも警戒が必要です。