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8000kmを超えて海が動く —— トンガ大噴火からの潮位変動でわかっていること・いないこと

さきほど津波警報に関する記事をアップしたのですが、実際に何が起きていたかの部分が長かったため、そこだけこちらの記事にお引越しすることにしました。

地球物理としての現象に興味ある方はこちらの記事、そして実際どうすべきかの行動に興味がある方は1つ前の記事をご覧ください!

megumin1120.hatenablog.com

そのとき、何が起きたのか

ざっくり言うと、太平洋にある火山が噴火して、その影響で日本で1メートルを超える津波らしきものが観測された、ということになります。

そして、火山噴火と津波らしきものとの間に関係はありそうだけど、何がどうつながった結果こうなったのかはわかっていない、ということです。

とはいえ、まったく何もわからないわけではなくいくつかのヒントがあります。

 

①今回の火山噴火は過去最大レベルに大規模だった

②火山噴火によって直接的に津波が発生したと考えるとおかしな点が多い

③日本の各地では昨夜(15日20~22時頃)、ほぼ全国的に通常と異なる気圧変化があった

 

これらのヒントについて、順番に見ていきます。

 

①今回の火山噴火は過去最大レベルに大規模だった

噴火が発生したのは日本時間の昨日(2022年1月15日)午後1時頃、場所は太平洋の中でも南半球に広がる南太平洋トンガという国です。

トンガは南太平洋にある約170の島からなる国で、日本からは8000kmほど離れています。

地球の半径が約6400kmですから、いかに遠いかがよくわかります。

今回そのトンガの海域にあるフンガ・トンガ・フンガ・ハアパイという海底火山が噴火しました。

ちなみにネットでは「火山の名前が長すぎる」という投稿がよく見られましたが、どうやらフンガ・トンガ島とフンガ・ハアパイ島の間にある海底火山なのでそう呼ばれるようです。

(調べて見ると間にあるというよりは、この海底火山が10年あまり前に噴火した際に地形が変わって2つの島がつながったような感じになっています。)

噴火時の噴煙の様子を宇宙から捉えた画像がこちら。

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気象衛星ひまわりの画像(提供:NICT)を元に作成。

衝撃的のはその規模で、最大で300kmくらいまで広がり、だいたい北海道と同じくらいの大きさ。

関東に当てはめるとこのくらいの規模で噴煙が広がっていたことになります。

そもそも海底火山ですから、火口も海の底にあるわけです。

つまり火口から出てきた火山噴出物(噴火によって噴き出すマグマや軽石や火山灰など)は海水の中をすごい勢いで上昇し、海面に顔を出し、さらにそこから大気中をぐんぐん広がっていったことになります。

この噴煙(大気中を上昇したものは主に火山灰だと思いますが)は最大で高さ16km程度まで到達してるというのも衝撃的です。

専門家によると、ここまで大規模な海底火山噴火はこれまでに記録がないとのこと。

「1000年に1度レベルの噴火」だと言及している専門家もいます。

私たちは記録にないレベルの大噴火に遭遇していることになります。

そして、噴火の規模が未曽有ということは、それによる影響も未曽有になる可能性があるわけです。

 

②火山噴火によって直接的に津波が発生したと考えるとおかしな点が多い

大規模な火山噴火によって「直接的に津波が発生する」場合は、噴火に伴い海底がずれ動くために津波が発生したり、あるいは吹き上がった火山噴出物が海に落下した衝撃で津波につながったりします。

こういう直接的なタイプの津波はそこまで珍しいものではなく、これまでにも数多く例があります。

しかし、そういった津波の場合、周期は10分~1時間程度、つまり一旦波が来て次の波が来るまでの間に10分~1時間くらいかかるのが通常です。

今回の場合は数分~10分というかなり短い周期で波が押し寄せているため、メカニズムが異なると考えられます。

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岩手県久慈市における潮位変動(2022年1月15日~16日)。気象庁HPを元に作成。

さらに、直接的な津波の場合は海面に近い部分の海水だけが動くのではなくて、海全体の海水が動いて波動が伝わっていきます。

そのため、もし日本で大きな津波が発生するのであれば、震源であるトンガと日本の間にある国々でもそれなりの大きさの津波が発生しているはず

ところが今回そういった国々、たとえばサイパンなどで観測された津波はいずれも30センチ程度

つまり海水全体が波打って伝わってきているのではない、ということです。

最後にもう1点、通常タイプの津波であれば気象庁の持つ津波予測システムで到達時間が計算可能ですが、それによって予測された時間と、実際に潮位変化が出始めた時間に大きなずれがありました。

この点も、今回の津波が「普通ではない」根拠の1つになります。

 

③日本の各地では昨夜(15日20~22時頃)、ほぼ全国的に通常と異なる気圧変化があった

こちらは小笠原諸島の父島で観測された気圧の様子ですが、19時半頃(下図の赤い丸の部分)にスパイクのような気圧変化が観測されています。

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父島での気圧観測データ(気象庁資料を元に作成)

同様の気圧変化は全国各地で観測されました。

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各地の気圧観測データ(気象庁資料を元に作成)

たった2hPaほど変動ですが、これだけ広範囲で同様の気圧変化が生じるということは何か共通の原因があり、おそらくは今回の大規模噴火に関連があると考えられます。

専門家の中には、これが火山噴火による衝撃波ではないかという推測もあります。

そして、衝撃波が海面に小刻みな波を作り広い広い太平洋のあちこちでぶつかったり合わさったりしながら、最終的に日本付近で大きな波になってしまった、というのです。

ただ、このメカニズムの仮定が正しいかどうかを調べるのは今後しばらく時間がかかります

 

以上の①~③から、今回の海の変化は通常の津波と異なることはわかりますが、通常の津波と異なる特殊な津波と言うべきなのか、そもそも津波ではない他の何かなのか、それはまだわかりません

ひとまず、何であったとしても潮位計で観測した値に変化があったことに違いはないので、気象庁では「潮位変動」という大きなくくりで呼んで説明しています。

 

ここまで、実際の現象ベースで解説をしてきました。

一方で、私たち日本に住む一般の人がいざという時に何をすべきかはまた別の話になります。

それについてはこちらの記事をご覧ください!

megumin1120.hatenablog.com