今年は東北をはじめ各地で雪が多い、という話題を先日お送りしましたが、「雪が多い」ということは「強い冬型の気圧配置の日が多い」ので、当然ながらただの雪ではなく吹雪が多くなります。
ところが青森県では、そんな吹雪の中でも「立ち続ける」珍しい馬に会うことができます。
今日は、見るだけでも体が縮み上がるような冬景色の中でもどっしり立って倒れない、不思議な馬たち「寒立馬(かんだちめ)」のお話です。
青森県の下北半島の一部をなす東通村(ひがしどおりむら)。
「逆くの字」のような形をした下北半島の、曲がり角のような場所が、本州の最北東端である尻屋崎(しりやざき)です。
今も30ほどの集落が残る東通村では、この尻屋崎を中心に古くから漁業が盛んで、ウニやアワビ、昆布やヒラメなどが特産品。
車が無かった時代には岬で獲れた魚などを運ぶのに馬が活躍していました。
冬になると雪も風も強い日が多くなり厳しい気候のこの場所では、どんな日でもしっかり荷を運べる馬が必要です。
もともと東北地方は有名な馬産地が多く、この地域でも江戸時代から藩の政策として馬の放牧が通年で行われていましたが、明治以降、外来種との交配を経て次第に大型化していきました。
現在の馬たちは、南部馬(南部はかつての岩手~青森付近を指す地名)を祖とする田名部馬と、フランス生まれの大型種であるブルトン種の、双方の血を受け継いでいます。
寒さと粗食に耐え持久力のある田名部馬と、どっしり太い足を持つブルトン種。
吹雪の中でも倒れない不思議な馬は、こうして生まれたのです。
戦後は運搬用としての役割を終え数が減っていったものの、観光資源としての価値が注目され保護されるようになり、現在では25頭が放牧されています。
1頭1頭、名前がつけられ、地元の人が大切に世話をし続けています。
そして毎年4月から11月にかけては景勝地としても有名な尻屋埼灯台の周辺に放たれ、冬になると近くのアタカという越冬放牧地に移動します。
(下記リンクの地図で、①が尻屋埼灯台、②が越冬放牧地「アタカ」)
www.vill.higashidoori.lg.jp
もともとは「野放馬」と呼ばれていた馬たちですが、昭和中期に地元の人が詠んだ短歌の中で「寒立馬(かんだちめ)」という語が使われたことをきっかけに現在の呼び名になりました。
「寒立ち」というのは元来、雪の中でカモシカが長時間じっと立ち尽くしている様子を指して、伝統的な猟師集団であるマタギたちが使っていた言葉です。
なお、冬の様子だけ見るとなんとも猛々しい雰囲気に思われがちですが、実は愛らしい一面もあります。
人を怖がらない性格で、暖かい季節に見に行くと、観光客が見ているそばでごろんと地面に寝転ぶことも…!
馬は本来とても注意深い生き物ですが、厳しい気候の尻屋崎ではこの馬たち以外に生息する動物が少なく、警戒する相手がいないためにのんびりした性格に育つようです。
穏やかな日も、激しい吹雪の日も、「立ち続ける」寒立馬。
雄々しくも愛らしいその姿は、見る人に不思議な元気を分けてくれそうです。