山形と宮城にまたがる蔵王連峰(ざおうれんぽう)には、標高1700メートルを超える山頂と麓との間をご神体が毎年「お引っ越し」し続ける、ちょっと変わった神社があります。
今週のお題「引っ越し」に合わせてお送りするのは、厳しい気候の中で地元の人たちが大切に守り続ける蔵王のシンボルのお話です。
蔵王と言えば冬は樹氷、春夏は雪解けとともに現れる束の間の美しい緑、そして秋は極彩色の紅葉と、全国的にも有名な観光スポット。
「蔵王」という1つの山があるわけではなく複数の山が連なりあって連峰を形成していて、そのうち3番目に標高が高い刈田岳(かっただけ)の山頂付近に、今回の主人公である刈田嶺神社(かったみねじんじゃ)奥宮があります。
(写真リンク元は下記HP)
標高1758メートルの刈田岳山頂は、晩秋から冬、そして早春にかけての約半年間は、雪に覆われ強い風が吹き続ける厳しい環境。
容易に近づけない日が多くなるため、この期間はご神体を麓に「お引っ越し」します。
刈田嶺神社は山の上に奥宮、そして麓の温泉街に里宮とも呼ばれる拝殿があり、毎年秋分が過ぎた頃になると、「下山式」という神事を行いご神体を麓まで移動します。
そして4月、雪が解ける頃になるとまた山頂へと戻すのです。
刈田岳山頂にはもともと、蔵王大権現(ざおうだいごんげん)という山岳信仰や修験道にまつわる権現様が鎮座していましたが、明治時代の神仏分離政策によって神社へと生まれ変わったとされていて、現在は天之水分神(あまのみくまりのかみ)と国之水分神(くにのみくまりのかみ)を祀っています。
刈田岳山頂へ車で向かうための道路「蔵王エコーライン」の入り口には、かつての蔵王大権現への参道入り口を示す場所に、大きく立派な赤い鳥居がそびえています。
刈田岳の山頂には美しい青緑色をした「御釜(おかま)」と呼ばれる火山湖があり、徒歩で登る人も、そして自家用車やバスで蔵王エコーラインを走る人も、多くが御釜を目指します。
刈田嶺神社・奥宮はこの御釜のすぐ近くにあり、ここからは御釜を見下ろすことはもちろん、遠く仙台市街地まで見渡すことができます。
形を変えながら時代を超えて大切にされてきた場所で、心洗われる絶景を見る体験は、きっと忘れられないものになりそうです。