昔話の中には東北が起源となっているものが数多くあり、たとえば「天狗の羽うちわ」や「ねずみの相撲」などは(もちろん諸説あるものの)東北地方の話だとされています。
中でもよく知られているのが、
今の岩手県内に伝わる民話が起源とされ、現在でも岩手には座敷わらしの伝説が残る場所がいくつもあります。
その一つ、岩手県二戸市にある旅館・緑風荘(りょくふうそう)に以前泊まったことがあります。
金田一温泉(きんだいちおんせん)と呼ばれる温泉の沸き出る緑風荘はかなり前から、
しかし2009年に火事で焼けてしまい、当時は「やっぱり座敷わらしなんていなかったじゃないか!」と批判されることになります。
なぜ火事で焼けた=座敷わらしがいないという話につながるのか、地元でない人や、あるいは民話に詳しくない人には説明が必要かもしれません。
実は座敷わらしが出る家というのは昔から、「
つまり、旅館が火事の被害にあって商売ができなくなるなんて、そのご利益とはまったく逆の話になってしまうので、そんな旅館に座敷わらしがいるなんておかしい、という理屈なのです。
ところがその批判は、2年後に
2011年3月11日。
東日本大震災という未曽有の災害によって、この緑風荘のある岩手県二戸市は震度5弱の揺れに見舞われました。
耐震性の低い、古い建物だった緑風荘がもし火事で焼けていなかったら、震災によって崩壊していたかもしれない。
実は前述の2009年の火事のとき、旅館内部にはたまたまお客さんがおらず、犠牲者は出ませんでした。
しかし、2009年に燃えずに2011年まで営業を続けていたら、東日本大震災で人的被害が出ていたかもしれません。
もちろん真相は誰にもわかりませんが、2016年、緑風荘は6年半の歳月を経て復活しました。
以前のように、座敷わらしが現れるという槐(えんじゅ)の間がつくられ、座敷わらしに会いたいという人が全国から訪れます。
再建後の槐(えんじゅ)の間。詳しいことはまた別の記事で書きたいと思うが、ここに亀麿(かめまろ)という座敷わらしが出るという。
個人的に思うのは、民話や伝説というのは、人の心の中に生きて、人の心の中で育つものだということです。
史実がどうかとか、あるいは科学的にかどうかではなく、同じことを思う人が多ければ多いほど真実味を増し、時代とともに思う人が減っていけばまるで最初から存在しなかったかのように忘れられてしまう。
座敷わらし伝説が令和の世にも生き続けているのは、
そんな取りとめのないことを考えながら今日も眠ります。
皆さんの秋の週末が、実り多きものでありますように。