みちなるみちのく

東北180市町村を回った筆者が、あなたの知らない東北(みちのく)をご紹介します。

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成女の契り 血の繋がり無くとも一生助け合う「ケヤキキョウダイ」(山形・鶴岡)

12歳になった女の子が、同じ年頃の少女たちとクジを引いて相手を選び、姉妹の契りを結ぶ――。

そんな不思議な風習が、山形県のある海沿いの町に伝わっています。

成女儀礼の1つとして考えられている、この地域独特の習俗「ケヤキキョウダイ」

成人に日に合わせて今週のお題が引き続き「大人になったなと感じるとき」ですが、彼女たちにとってこの儀式の経験は、きっと人生の大きな節目として、記憶に残るのではないでしょうか。

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(稲わらで作ったクジを引く少女たち。2015年12月のケヤキキョウダイの様子。写真リンク元:庄内日報ニュース)

山形県の旧温海町(あつみまち)、現在の鶴岡市大岩川浜中地区には、満12歳と13歳の少女らが、年の暮れに川沿いの神社に集まってクジを引いて姉妹の契りを結ぶ相手を決め、クジを川へ流した後、大晦日に定められた宿で元旦の昼まで共に過ごす…、という風習があります。

ケヤキキョウダイと呼ばれるこの風習は250年以上も歴史があるとされ、「ケヤキ」は「ケイヤク(契約)」がなまったものだと考えられています。

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稲わらで作られたクジは、根元のところで1組ずつつながっていて、引いた稲わらがつながっていた相手と契りを結ぶことになる。(画像:文化庁HPより)

ケイヤクを結ぶ相手とは、大晦日の夜には持ち寄ったを交換して食べ、1つの床に寝て(地区の民家に泊まる)一緒に元日の昼まで断食することになっていて、その後も生涯を通じて交際が続けられます。

血の繋がりが無くとも、本当の兄弟姉妹と同じかそれ以上に強い絆が、一生続くのです。

この儀式は1993年に、国から「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」として指定されています。

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(左)神社から200メートルほど離れた庄内小国川の河口まで、つながったクジを持ったまま移動する。(右)川にクジを流し、海へと向かうのを見届ける。(画像:左右ともに文化庁HPより)

血の繋がりのない男性同士が兄弟の契りを結ぶ「兄弟分」という伝統的習俗はあちこちで見られるものの、女性同士というのは全国的にも珍しい文化です。

なぜこのような文化が根付いたのか、由来は定かではありませんが、お産が軽く済むようにという祈りが込められているという説や、男性が出稼ぎで留守の間、女性たちが協力して家や集落を守っていくという、気候の厳しい雪国ならではの事情があるのではという指摘もあります。

現代でも、一度ケイヤクを結んだ相手とは一生助け合うことになっていて、互いの冠婚葬祭に出席したり、中には相手の結婚式の際にベールを作ってあげるなどしたという例もあります。

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寒さや雪で農業ができない期間が長い地域では、かつて出稼ぎをしないと立ち行かない農家が多かった。

ケヤキキョウダイの儀式は、基本的に子どもたちだけで行います。

儀式に参加する女の子たちは、すでにケヤキキョウダイを経験している先輩の女の子とともに地区の神社に集まり、先輩の指導のもとすべての段取りを子ども自らこなしていきます。

何世紀も続けられてきた大事な儀式を経験する、しかも、それを自分たちの力で完遂する。

それは、彼女たちにとって、自分が"大人"の仲間入りをする瞬間、"大人"として認められる瞬間、なのかもしれません。

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(2011年のケヤキキョウダイの様子。写真リンク元:庄内日報ニュース)

なお、もともとは毎年、年末恒例で行われていたこの行事も、地区の子どもの数が減り続け、今では数年に一度しかできなくなりました。

年齢も従来の12~13歳にこだわらず、近い年頃の女の子が一定数いるタイミングで行います。

この記事の冒頭で引用した2015年のときは2年ぶりの儀式だったそうで、このときは地区の小学校に通う9~10歳の女の子5人が、それぞれ2人姉妹3人姉妹になりました。

 

まるで物語に出てくる設定のような、ちょっと不思議な雰囲気を持つ風習、ケヤキキョウダイ

温海の美しい風景とともに、きっとこれからも、大切に大切に受け継がれていってほしいと、思わずにはいられません。