みちなるみちのく

東北180市町村を回った筆者が、あなたの知らない東北(みちのく)をご紹介します。

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そろそろ卒業したい雪おろし事故 "命綱をつける"だけではダメな理由

今週のお題「〇〇からの卒業」に合わせて先日、冬からの卒業が遠い青森の話を書きましたが、東北で卒業が必要なこととしてもう一つ、雪おろし中の事故からの卒業を挙げずにはいられません。

このブログの読者には雪国在住の方は少ないとは思いますが、この機会に覚書もかねて、記事を書きたいと思います。

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自然災害によって人が亡くなったりケガをしたりする場合、大雨でも暴風でもわりと直接的に雨や風の害を受けますが、の場合は間接的、つまり雪そのものではなく除雪作業中の事故による被害が圧倒的多数を占めます。

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雪害による死亡状況別死者数(平成25年11月~平成26年3月:内閣府HPより)

中でも特に致命的な被害につながっているのが、雪おろし作業中の屋根からの転落

これに対して、メディアでも有名気象予報士のブログでも「雪おろしは必ず命綱をつけて」と毎冬叫ばれていますが、それだけでは人を助けることができない理由があります。

というのも実は、たとえ豪雪地帯に生まれ育っても、「雪おろしのための命綱」がどういうものかよくわからない人も普通にいるのです。

すると何が起きるかというと、ホームセンターでなんとなく「綱」っぽいもの(何かしらのロープ)を買って、正しくない方法で装着し、結局転落するか、あるいはその綱で宙づりになってしまうという非常事態が発生してしまいます。

命綱をつけるという作業はもちろん手間がかかるので、面倒であることを理由につけない人が多いという事実もありますが、北陸地方(東北のデータがなくてごめんなさい…)で行政が行ったアンケートでは、以前と比べて「命綱をつけよう」という意思のある住民は増えているという結果が出ています。

テレビなどメディアが長年必死に呼びかけた効果が出ていると言えそうですが、とはいえ命綱を初めてつける人にとっては「命綱をつけましょう」というセリフだけでは安全につながらないのは前述のとおりです。

ではどうすればよいかというと、命綱の片方の端は安全帯(あんぜんたい)につけてその安全帯を身につけ(あるいは「もやい結び」で体に結び付ける)、もう片方の端はアンカー(または家の反対側の柱や固定具)に固定します。

アンカーというのは、雪の多い地域でよく屋根についている命綱固定用の器具ですが、アンカーが屋根にない家の場合は、アンカーの設置費用に対して行政から補助金の出る自治体が多くなっています。

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アンカーの例(国土交通省HPより)

「命綱・安全帯・アンカー」、この3つが揃ってようやく、手間をかけて命綱を使用する意味が出てきます。

また、ほかにも、

・携帯電話を身につけて屋根に上る。

(万が一、転落して雪に埋もれた場合でも、発見してもらえる可能性が上がる。)

・晴れて暖かい日でも薄着で屋根に上らない。

(万が一、転落してしまったときの衝撃を和らげるため。)

・家の周りの雪かきは、屋根の雪おろしの後にやる。

(万が一、転落してしまったとき、雪をクッションにするため。)

などが大切です。

なお、雪おろし中の事故は、”必要のない”雪おろし中にも発生しています。

つまり、雪おろしが必要なほど雪が積もっていないときに作業をして、被害を受けてしまう人もいるのです。

そんな事故を避けるために、自分の住む地域で雪おろしが必要な状態になっているのかどうかを判断するヒントになるサイトがあります。

雪おろシグナル

(上記リンクから防災科学技術研究所のHPに飛びます。下記はサイトの表示の一例です。)

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「雪おろシグナル」と呼ばれるこのサイトでは、北陸と山形・秋田の各県について(青森と福島がないのが玉に瑕ですが…)、今どのくらいの重さの雪が積もっていて、各県の住宅の設計基準(地域によって異なる)に対してどのくらいの量になっているのかが、可視化されています。

つまり、積雪の深さだけからはわからない情報が一目でわかる仕組みです。

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地域によっては1.5メートルの積雪まで耐えられる設計基準になっているところも。

もちろんこれだけで雪おろしの必要有無を判断することはできませんし、これまでにもった量だけでなく今後の天気予報もあわせて確認すべきではありますが、一つの目安になるのは確かです。

また、秋田県など独自に「雪下ろし注意情報」を出している県もあって、参考にすることができます。

www.bousai-akita.jp

雪による害は、準備をしっかりすれば避けられるものが多くあります。

便利になった情報もフル活用して、雪おろし事故から「卒業」したいところです。