みちなるみちのく

東北180市町村を回った筆者が、あなたの知らない東北(みちのく)をご紹介します。

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"北限のお茶"はどこだ —— それぞれの事情

今週のお題「好きなお茶」に合わせて投稿した前回の記事で「気仙茶」という岩手県で栽培されるお茶をご紹介しましたが、その際に引用したFacebookのページが「北限の茶を守る気仙茶の会」という名前だったのに気づいたかたもいたかもしれません。

しかし、お茶に詳しい方ならご存知かもしれませんが、お茶の栽培はご紹介した気仙地域よりも北に位置する場所でも行われていますし、さらには「北限のお茶」で検索すると、検索結果には青森県新潟県など様々な地名が登場します。

もともと温暖な地域発祥であるお茶の栽培が日本に伝わってから約800年

いったい現在の”北限”はどこなのか。

今日は、「北限のお茶」をめぐるそれぞれの事情に迫ります。

 

商業的な観点での「限界」:新潟県

新潟県村上市で400年ほど前から栽培されている「村上茶」は、商業的に茶栽培が成り立つ"北限"とされています。

www.sake3.com

実際、村上茶はペットボトルの商品「雪国緑茶」が販売されていますし、以前このブログでもご紹介したJR東日本の豪華周遊列車「トランスイート四季島」でも提供されたことがあり、単に守るだけの存在ではなく経済効果を生み出す側面があります。

村上茶を「北限のお茶」として説明している研究論文もあり、"北限"の名は伊達ではありません。

なお、同じ新潟県内でも村上市より北でお茶の栽培をしている人はいるようですが、ほとんど自家消費用とのことでした。

 

現時点での「北限」:秋田県

秋田県能代市(のしろし)に300年以上前から伝わる檜山茶(ひやまちゃ)は、現在日本でお茶の生産がお行われている場所の中では「北限」になります。

common3.pref.akita.lg.jp

ただ、最盛期には200戸ほどあった生産農家は2013年時点では2戸に減ったようで、

fan-akita.sakigake.jp

伝統を絶やさないためにクラウドファンディングやボランティアの助けを得ながら地道な活動が続いています。

 

工場の存在に着目:岩手県

気仙茶(けせんちゃ)の栽培地域(岩手県の陸前高田市・大船渡市)は前述の秋田県能代市と比べるとわりと南にありますが、こちらは製茶工場の有無に着目して「北限」としているようです。

kesencha.exblog.jp

製茶工場があるということはお茶の栽培に地域的な広がりがあるという考え方。

気仙茶は前回の記事でご紹介したように手作業が中心ではありますが、今も地元の工場に製茶工程を委託する農家があるようです。

 

消滅した北限!?:青森県

青森県黒石市には京都の宇治から伝わり栽培が始まったという伝統の「黒石茶」があります。

が、どうも「あります」ではなく「ありました」というべきのようです。

2020年現在、嬉しいことに本記事をご覧の方々より黒石茶についてのお問い合わせをいただくことがございます。大変申し訳ございませんが現在、黒石茶栽培は行われておりません。

kuroishi.or.jp

なんと…。

一度味わってみたかったけど遅かったのか…。

ただ、私が調べた中では2019年に書かれた下記のブログで栽培されている様子が載っていたため、

www.takuron.jp

前述の「栽培は行われていません」というのは、この農家さんが栽培を辞めたのか、それともこの農家さんの存在が認識されていないのかは、わかりません。 

少なくとも、前述の記事にあったような賑やかな収穫や手もみ作業の風景はもう見られないようです。

ちなみに黒石にお茶の栽培が伝わった歴史を物語る茶の木が黒石市内のお寺の境内にあり、

blog.livedoor.jp

この記事が書かれた2015年の時点では3本の木が残っていたようです。

寒さの厳しい黒石で茶の木を維持し続けるのは難しいことかと思いますが、ぜひこの木たちには生き残っていてほしいと思うばかりです。

 

ダークホース登場!圧倒的「北」:北海道

ここまで本州の話ばかりしてきましたが、なんと現在、北海道でお茶の栽培が試みられています。

(下記は有料記事ですが概要だけは無料で読むことができます。)

www.nikkei.com

北海道ニセコ町で栽培が進められているお茶は2023年に発売予定とのことで、あと2年ほどで「北海道のお茶」が飲める日がやってくるかもしれません。

ひたすら北限を競い合うだけなのは不毛な気がしますが、北海道の大地で育つものは美味しいものが多いので、やはり飲んでみたい・味わってみたいという気持ちが掻き立てられます。

 

ここまでお茶にまるわる5つの"北限"を見てきました。

お茶でもそのほかの農作物でも「北限」や「日本最北」が群雄割拠していることはままありますが、いずれにしても、それらは生産に携わる方々や地元の方々が大切にしているもの。

消費者の側である私もまた、そういった「大切に思う気持ち」を紡ぐお手伝いができればと思わずにはいられません。