今週のお題が「読書の秋」ということで思い浮かぶのは、よく知られた文学作品の中に仙台を舞台にしたものがさりげなく多いこと。
仙台に住む前はそういう作品を読んでも地方都市の一つという認識しかなく、おそらくそこが仙台でも宇都宮でも、あるいは神戸や福岡でも作品の印象は変わらなかったかもしれません。
しかし実際に住んだ後に読んでみると、懐かしい地名や脳裏に浮かぶ風景がなんとも言えない温かさを持ってやってきて、作品に愛着がわく自分がいます。
今日はその中から、仙台を知っていても知らなくても楽しめる本と漫画を1作品ずつ、『オーデュボンの祈り』と『ハイキュー!』をご紹介します!
(物語の設定についての説明は入れますがネタバレはないのでご安心を!)
言わずと知れた伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』は、仙台でコンビニ強盗未遂犯として捕まりそうになった主人公が、石巻の沖にある小さな島にたどり着くところから物語が始まります。
「荻島」というその島自体は架空の存在ですが、「牡鹿半島を、ずっと南に来た」ところにあると明言されていて、宮城県に土地勘があればだいたいの位置関係がわかります。
100年以上前から外界と隔絶しているというその島で主人公は、嘘しか言わない画家や、人の言葉を話すカカシなど、不思議な登場人物たちに次々と出会います。
伊坂幸太郎特有の、人間ドラマにファンタジーのようなSFのような奇妙な雰囲気が織り交ざった世界観は、このデビュー作からすでに健在です。
伊坂幸太郎は出身こそ千葉県ですが、大学時代を過ごした仙台に今も住んでいて、他にも『重力ピエロ』や『アイネクライネナハトムジーク』など様々な作品に仙台の地名やスポットが登場します。
ちなみに宮城県は海岸線の一部がリアス式海岸であることもあって沿岸に離島が多く、島という存在自体には割と馴染みがあるのですが、この小説の舞台は"牡鹿半島のずっと南"ということで、県民にとっても"僻地"のイメージがある場所です。
牡鹿半島自体は観光地もあり仙台市民で行ったことのある人も一定数いそうですが、その「ずっと南」ともなると完全に未知のスポット。
作者がこの場所を舞台に選んだのは、宮城を知る人も知らない人も等しく"未知の世界"のイメージを持てる場所だからなのかもしれません。
もう一つご紹介するのは、週刊少年ジャンプで2020年まで8年以上にわたって連載されていた人気漫画『ハイキュー!』です。
バレー部で全国大会出場を目指す高校生が主人公で、バレーボールを漢字で書くと「排球(はいきゅう)」になることがタイトルの由来。
バレーボール選手としては致命的な低身長をものともせず持ち前のジャンプ力や運動センス、そして負けず嫌いの根性によって強豪に立ち向かう主人公、そして彼を支える強烈な個性と才能を持つ仲間たちとのドラマが、小気味よいスピード感を持って描かれています。
バレーボールあるいはスポーツに関する知識がなくても楽しめるように工夫されていて、テレビアニメも放映されていました。
主人公たちが通う高校は架空のものですが、学校名は「宮城県立烏野(からすの)高等学校」と、宮城の高校であることが明示されています。
作中に出てくる高校周辺ののどかな風景は作者自身の故郷である岩手県軽米町(かるまいまち)を主にモデルにしているようですが、試合の際には仙台市体育館(現在はネーミングライツにより「カメイアリーナ仙台」)など仙台市内の実在の施設も出てきて、しかも本物にそっくり(作者は専門学校時代を仙台で過ごしています)。
仙台市の成人式や東北大学の入学式をはじめ様々な式典に使われるほか、バレーやバドミントンの世界大会も開催されたことのある大きな体育館で、仙台っ子にはおなじみの場所です。
ハイキューの聖地宮城県仙台市体育館行ってきました!
— りと (@r_sao_rito) September 1, 2021
休業で中は入れなかったけど外観でもう大満足です✌️#ハイキュー #聖地巡礼 pic.twitter.com/Lr5caD3dmp
ちなみに、建物内にあるこの太陽みたいな壁のオブジェも幾度となく描かれていて、聖地巡礼をする人もいるようです。
思ったよりも目の前で見ると大きかったΣ( '-' )
— ともチ@🐶🐻📦🤖🐱🐰好き (@tomochi0626) June 8, 2018
競技場の中も見たかったけど閉まってた┏)´0`(┓#ハイキュー#聖地巡礼#仙台市体育館#カメイアリーナ仙台 pic.twitter.com/4zfyoyoKKb
作品を通して個人的に印象的なのは、登場人物たちが見晴らしの良い場所から景色を見渡すときに、地平線が山脈になっていること。
これは宮城県ならではの特徴だと思いますが、仙台平野では奥羽山脈から沿岸に向かってスーッと標高が落ちていって、間に目立つ独立峰もないため、基本的にはどこでも見通しのきく場所から見渡せば山脈が横一文字に見えます。
そのほか、大会で対戦する高校の生徒たちの名前が「作並くん」や「女川くん」など宮城県内の地名になっていたり、あるいは宮城だけでは足りずに(?)岩手県や山形県の地名(岩泉や天童など)も登場して、東北に土地勘があると毎度ほほえましい気持ちになります。
ちなみに仙台が登場する漫画は意外に多く、有名どころでは『ジョジョの奇妙な冒険』で最近完結したばかりの一番新しいシリーズ(第8部)の舞台が震災直後の仙台になっていたり、現在も週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『呪術廻戦』では物語冒頭で主人公が通っていた高校が仙台にある設定です。
仙台市内にはこの記事冒頭に載せた広瀬川をはじめそのまま描写しても"絵になる"ような、本でも漫画でも"映える"場所が多かったり、あるいは仙台に住んだことがあると(私もまさにそうですが)たとえそれが一時的であっても愛着がわいたりと、決して目立つ都市ではないにも関わらず底堅い魅力があります。
これまでこのブログでたびたびご紹介してきたように、それぞれ季節ごとに様々な楽しみ方のできる街でもあるので、まだ行ったことのない方はぜひ一度、杜の都・仙台を訪れてみてください!