みちなるみちのく

東北180市町村を回った筆者が、あなたの知らない東北(みちのく)をご紹介します。

「地獄」の意味が伝わらなかった絶望 —— 関東・東北豪雨から5年

2015年9月、関東から東北にかけての地域に記録的な雨が降り、10日から11日にかけて、栃木・茨城・宮城大雨の特別警報が発表されました。

3県であわせて8人が亡くなった平成27年9月関東・東北豪雨から、5年を迎えます。

 

この災害については、本業ではこれまで講演や執筆など様々な形で伝える仕事をしてきましたが、こちらのブログでも、5年経った今改めて思うことをまとめておきたいと思います。 

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川が氾濫し一面浸水した宮城県内の様子。(写真:東北地方整備局HPより)

◆目次◆

1.天気図が、動かない 

2.「線状降水帯」という言葉の台頭

3.「地獄」の意味が伝わらなかった絶望

 

                                1.天気図が、動かない  

日本の南の海上で発生した台風18号は9日に愛知県に上陸し、その日のうちに日本海へ抜けて温帯低気圧に変わりました。

ところがこの低気圧はその後、北側に居座っていた高気圧に行く手を阻まれ、翌々日まで日本海に留まることになります。

 

そこへやってきたのが、台風17号です。

元台風台風に挟まれた状態になった関東や東北には記録的な雨が降り、総降水量はもっとも多かった栃木県日光市で600ミリを超えました

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2015年9月9日~11日の総降水量(気象庁HPより)

雨が降りしきる中、大雨特別警報が10日未明に栃木、10日の朝には茨城に発表され、11日明け方には宮城にも出されました。

 

雨量が多くなった地域は、台風18号から変わった低気圧反時計回りの風と、台風17号反時計回りの風がぶつかり続け、持続的に積乱雲が発達したエリアでした。

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2015年9月10日午後9時の天気図(気象庁HPを元に作成)。

上空の流れが高気圧をブロックしていたことで元台風18号が日本海で動けなくなり、さらにその上空の流れが元台風18号と台風17号の間で南風を持続させて雨雲が発達し続けるという、幾重にも重なった条件が記録的な雨につながりました。

 

                                2.「線状降水帯」という言葉の台頭

この災害で集中的に雨を降らせたのは、「線状降水帯」と呼ばれるタイプの雨雲でした。

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2015年9月11日午前1時の雨の様子(気象庁HPより)。ライン状に並んだ活発な雨雲が宮城県にかかっていた。これより前の時間には栃木県中心にライン状の雨雲がかかり、狭い範囲に集中的に雨を降らせた。

気象庁による線状降水帯の説明は、

次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。

となっています。

 

要するに「ライン状になっていて同じところで強い雨を長時間降らせる雨雲」ということですが、「ライン状」って何キロ×何キロならいいの?というのが、気象庁としてもまだ決めかねているぐらい、まだまだ研究段階の現象です。

 

関東・東北豪雨では事後の解析で、10を超える線状降水帯が形成されたことがわかっていて、集中的に雨を降らせたことで8人の死者だけでなく、80人の負傷者1万棟を超える浸水につながりました。

 

今思うと、この頃から「線状降水帯」という言葉がメディアで多用されるようになり、また一般の人にも浸透し始めたのではないかと思っています。

 

いまだに定義すらまともに決まっていない言葉を多用することにリスクがあるのは当然ですが、それでも一般の人が「やばい」と感じてくれる気象用語が少ない現状では、警戒を呼び掛けるために貴重な言葉であることは間違いありません。

 

                                3.「地獄」の意味が伝わらなかった絶望

複数の川が氾濫したこの災害でもっとも注目されたのが、茨城県常総市で氾濫した鬼怒川でした。

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茨城県常総市の鬼怒川決壊の様子(写真:関東地方整備局HPより)

氾濫発生は9月11日の朝、雨もやんで明るくなったあとでした。

以前の記事でお伝えしたように、大きな川というのは増水に時間がかかり天気が回復したあと時間差で氾濫することがあります。

 

今回のケースでは、鬼怒川の氾濫危険情報(氾濫の一歩手前まで来ているという意味の情報)が出されてから実際に氾濫するまで6時間以上の猶予がありましたが、情報が出たのが夜中であったこと、そして、何より雨がやんでいて氾濫するという実感が持てなかったことから、避難した人は少なかったと考えられます。

あちこちで堤防が切れ、勢いよく溢れる濁流が家屋を押し流す現場には多くの住民が取り残されていて、レスキュー隊による必死の救助が行われました。

 

発災の2ヶ月後、現場を案内してくださった国土交通省の方が、変わり果てた流域の姿を見ながら、こうつぶやいたのを今でも覚えています。

氾濫危険情報を出すということは、我々にとっては"これから地獄が始まる"という意味なんです。でも、その危機感が伝わらなかった。 

地獄が始まる ― 。

それは衝撃的な言葉でした。

しかも、そのくらい覚悟をもって出した情報が、同じ温度感で受け取られないことに、彼がどれほどの無力感を持っていたか、はかり知れません。

 

その後、二度と同じことを繰り返さないよう、常総市と国土交通省は協力してソフト面の防災対策を進めています。

www.ktr.mlit.go.jp

いざ大事な情報が出たときには、ちゃんと気づいて行動につなげられるように、そして、情報が出た時点で行動が開始できるよう、その前の段階から準備を始められるように、住民を巻き込んだ取り組みが続けられています。