秋になると東北各地のスーパーの野菜売り場に並び始めるのが「菊」です。
住んだことがないと一瞬意味がわからないと思いますが、山形県を中心とした地域では菊を食べる習慣があります。
菊と言っても食用菊で、しかも食用菊と言ってもお刺身に添える小さい菊とは異なる品種。
とにかく美味しいこと請け合い、今日は魅惑の「菊」をご紹介します。
山形県の内陸部を中心に盛んに生産されている食用菊。
東京都中央卸売市場で扱う食用菊(刺身に添える用を除く)の約5割が山形県産です。
青森や秋田の一部でも生産されていますが、太平洋側ではさほど見られず、同じ東北でも岩手や福島では食べたことがない人が多いと思います。
(宮城では、仙台市が山形市と隣接していることもあり、仙台市内のスーパーでは普通に売られていました。)
柔らかい花びらが沢山ついているのが特徴で、花が黄色い品種もありますが、一番人気は紫色の「もってのほか」です。
「もって菊」とも呼ばれ、収穫できるのは10月から11月にかけての短い期間ですが、あまりに人気なので「早生もって」という早生品種が開発され9月から店頭に並びます。
呼び名の由来は「天皇家の御紋を食べるのはもってのほか」だから、とか、「もってのほか美味しい」から、など諸説あります。
正式には「延命楽」という品種名で、東北のほか新潟県(呼び名は主に「かきのもと」)でも産されています。
(「延命楽」ではなく「淵明楽」が正式名という説もあります。)
「もってのほか」以外の菊も本来の旬は秋ですが、需要があるためハウス栽培で加温や電照などを駆使して年間を通じて生産できるようになっていて、黄色系の品種は秋以外の季節も手に入れることができます。
お湯でさっとゆがいたお浸しでいただくのが基本的。
茹でるときのお湯に少々酢を加え、茹で上がったあとは冷水で冷ますと綺麗な色に仕上がります。
あとは酢醤油でも、出汁醤油でも、めんつゆでも、マヨネーズでも、お好みで。
シャキシャキとした食感がたまらず、ほのかな甘さとほろ苦さが絶妙に美味しい。
生では日持ちしませんが、茹でたものを酢につけて置くと持つので、私は酢+砂糖+醤油で漬けて保存したりしています。
日本に中国から菊が伝わってきたのは奈良時代ですが、食用した記録でもっとも古いのは江戸時代。
その頃には東北に限らず全国各地で食べていたようです。
なぜ山形を中心とした地域のみで残ったのかはわかっていませんが、
エディブルフラワーという言葉が生まれる以前から存在する、元祖「食べる花」です。
ちなみに(個人的には)まだまだ「もってのほか」に及ばないものの、黄色系の品種も最近は開発が進んで「寿」「岩月」「越天楽」「菊名月」など美味しい品種が増えています。
(なんだかどれも、料亭かお相撲さんの名前みたい!)
食用菊全般に言えることですが、食物繊維と葉酸が豊富で、美味しいだけでなく体にも良い食材です。
もともと菊は長寿のシンボルとして親しまれてきましたが、昔の人はその効能を知っていたのかもしれません。
山形が誇る元祖エディブルフラワー。
手に入れる機会があればぜひ、ご賞味ください!