みちなるみちのく

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私たちは東日本大震災から何を学んだのか NHK文研フォーラムから

今月3月11日、東日本大震災から10年を迎えます。

10年の間に、地震も気象災害も幾度となく発生して、多くの人にとってはもはや東日本大震災は特別な災害ではなく、印象が薄れてしまっているのかもしれません。

それでも、一度に2万人を超える人が犠牲になる災害を私は人生で目にしたことがないし、戦争を経験したことのない人のほとんどがそうだと思います。

今日の記事では、先日3月4日に開催されたNHK文研フォーラム「私たちは東日本大震災から何を学んだのか 震災10年・復興に関する世論調査報告」を視聴して知ったことのうち、皆さんに共有したいことをまとめます。

 

 

はじめに:「文研」とは

最初に簡単に解説しておきますが、「文研」=NHK放送文化研究所は、主に視聴率の調査や世論調査、そしてメディアの歴史や日本語の「ことばの変化」などをする研究所です。

世論調査の中では単に政治や行政に関する意見を聞くだけでなく、たとえば大きな災害が発生した後に、住民に対して「どうやって情報を手に入れたか」や「どのタイミングで避難したか」などのアンケートを実施したりします。

今回の調査報告では、文研が東日本大震災後に継続して行っている震災に関するアンケートの結果が報告され、それに関する専門家のディスカッションも行われました。

 

「復興」の実感は被災地の方が強い

文研によるアンケートは全国規模で行っていて、全国での集計結果と、東北の被災3県(岩手・宮城・福島)での集計結果を分けて可視化することで、それぞれの傾向がわかるようになっています。

全国で3600人、加えて被災3県ではさらに1300人以上にアンケートを実施し、いずれも6割以上の有効回答を得た結果のうち、特に全国と被災地で差が明瞭だった質問の1つが、「復興」の実感です。

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文研フォーラム視聴時のメモを元に復元作成したアンケート結果(フォーラム自体は録画等禁止だったため)。詳しいデータは文研が毎月出している「放送研究と調査」に掲載される予定。

上のグラフで暖色系で示した「実感できている」人の割合は、全国で52%被災3県で59%

全国の結果と比べて、被災3県では「復興」が実現できていると感じている人が多いという結果でした。

これは私も意外でしたし、意外に思われる方が多いのではと思います。

フォーラムに参加されていた専門家の方の解説を聞いていると、これはおそらく、現地ではこの10年、道路や堤防や鉄道といったインフラが大幅に復旧してきたのを目の当たりにしていて、復興したかと聞かれると復興していると答えざるを得ないのでは、と推測されていました。

では、質問の仕方を変えて、被災地の人々が「足りない」と感じているものは何なのか。

それを次の項目で見ていきます。

 

必要とされているものに温度差

復興のために何が必要かというアンケートでは、全国と被災3県で傾向が分かれる結果となりました。

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文研フォーラム視聴時のメモを元に復元作成したアンケート結果。なお、選択肢の項目は他にもあるが、ここでは抜粋して表示している。

もっとも多くの人が選んだのは全国でも被災3県でも「原発事故への対応」でしたが、全国の回答で2番目に多かった「住宅再建への支援」は、被災3県ではあまり選択されていませんでした。

逆に全国の回答であまり選択されなかった「人口減少への対応」は、被災3県では半分以上の人が選択していたという、対照的な結果です。

被災地に住んでいない人が被災地の現状を詳しく知ることは難しいとはいえ、被災地で必要とされていることと、全国の人が「必要だろう」と推測していることがここまで食い違っているとは、少しショックでした。

 

震災から学んだこと

一方で、震災を機に私たちが学んだこともあります。

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文研フォーラム視聴時のメモを元に復元作成したアンケート結果。

「住んでいる地域で災害の危険箇所を知っている」という人は、全国で56%被災3県で65%と、いずれも半数を上回っています。

ちなみに、今回のアンケートは新型コロナウイルスの影響で郵送で行われ、前回までのアンケートは配布回収で行われていたため単純な比較はできませんが、こういった防災の意識は上がっているとみられます。

「住んでいる地域で災害の危険箇所を知っている」人は、全国では2013年に43%、2015年に48%、そして今回56%

また、被災3県では2013年50%、2015年に57%、今回が65%
着実に増えていっているのです。

もちろん、この10年の間に他にも様々な災害が発生していて、東日本大震災だけがきっかけじゃないとは思いますが、「想定を超える災害が起きる」ことを私たちに強く認識させた災害であったことは確かです。

アンケートでは他にも、「自然の脅威の前でも、人は力を尽くしてできるだけのことをやるべき」と考える人の割合が、2015年や2017年の調査時よりも増えていることがわかりました。

自然の脅威に圧倒されるだけでなく、どれだけ凄まじい脅威を前にしてもなお、命を守るために力を尽くしたい。そう思う人が増えている。

それは、震災が残した、明るい兆しです。

 

恵みを楽しみながら、備える

フォーラムに登壇していた専門家の先生たちの話の中で、特に印象に残ったのは、「辛いことだけ考えて生きることはできない」という言葉です。

防災について論じる局面ではよく、災害の教訓を忘れて「自分は大丈夫」と思ってしまう「正常化バイアス」が論点の一つになりますが、辛いことを忘れようとするのは人間の本性です。
だから、風化はどうしても免れない
でもそもそも、いつまでも風化せず、いつまでも辛いことを考え続けて対策をするだけで生きていくのは大変だと。

そんな言葉を聞いたとき、なんだか自分の中で、すとんと落ち着いたというか、不思議と納得している自分がいました。
最悪の場合だけを考えて常に備えるのではなくて、少しそこから脱していく。

辛いことばかり考えるのではなくて、地域の恵みについても考えて、それを愛して楽しんで、享受していく。

その愛する場所で暮らすための一つのお作法としての防災のために、みんなで助け合って暮らす知恵を出し合う。

そんなバランス感覚を実現できないか。

それは、私が出会った、新しい、そして、明るい考え方でした。

 

私たちは東日本大震災から何を学んだのか

それはとても大きな問いであると同時にまた、私たち一人ひとりにとって身近な問いでもあります。

間もなくあの日から10年

家族と、友人と、あるいは、10年前の自分と、あの日のこと、話してみませんか。